研究概要 |
熱中症に対する法医学的診断としてHeat Shock Protein (HSP)等のストレス蛋白を高温曝露の証明とする試みもあるが、これらの蛋白は高温曝露以外にも発現し、その評価は困難である。高温曝露時において、熱がどの臓器にどの程度影響を及ぼし、どの臓器が直接死亡に関与しているのかが熱中症の法医病理学的病態解明の第一と考えた。申請者らが行っている高温暴露モデルラットを用いた研究の中で直腸温が44℃になると突然徐脈となり心停止する現象を見いだした。そこで、本研究では、この現象が熱の心臓に対する直接作用なのか脳幹循環中枢を介した抑制効果なのか、他の機序によるものかを検討することを含めた、熱に対する脳の急性反応を分子病態学的に検索し、高温曝露時(熱中症)の死亡に至る機序を解明することを目的とした。 10週齢雄ラットを高温多湿環境下に置き、直腸温がそれぞれ40℃、42℃、44℃に達したところで脳幹を摘出し、mRNAを抽出し、cDNA合成後、heat shock protein(HSP-70), Bc1-2, Bax, inducible nitric oxide synthase (iNOS)の4種類の遺伝子の発現をreal-time PCR法を用いて定量した。その結果、直腸温の上昇に伴い、HSP70の発現量は増加し、特に42℃から44℃の間では有意に増加した。一方、iNOSの発現量は42℃から44℃の間で有意に低下した。また、Bc1-2/Baxの発現量比は37℃から42℃までは明らかな変化を示さなかったが、42℃から44℃の間では有意に低下した。すなわち、過度の体温上昇は直接的もしくは間接的に脳幹の形態学的障害や機能的障害を引き起こす可能性を示唆していると考えられた。
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