1.アストロサイトにおけるS100Bの発現 これまでの研究で、覚醒剤中毒死例の線条体におけるグリア細胞の形態学的変化を明らかにしてきた。そこで、アストロサイトの増殖は認められなかったが、機能的変化を観察するために、S100Bの発現を観察した。S100Bは、神経変性疾患、頭部外傷等の中枢神経の障害において、アストロサイトに発現する。また、脳血管関門の破綻のマーカーとも考えられており、これまでに脳血管関門の破綻は高体温症の発現に重要な役割を果たしていることが示唆されている。そこで、12例の覚醒剤中毒死例と13例のコントロール例について、線条体におけるアストロサイトのS100B発現について免疫組織学的に検討した。その結果、S100B発現細胞の数は、両群において統計的有意差はなかったが、覚醒剤中毒死例群に増加傾向が認められた。今後は、覚醒剤による高体温症における、S100Bと脳血管関門との関連を探索することにより、高体温症の法医病理学的診断に発展できる可能性がある。 2.海馬における72kD熱ショックタンパク質(HSP72)発現 これまでの研究で、覚醒剤中毒死例群におけるHSP72の発現を明らかにしたが、さらに海馬においてその分布を詳細に検討した。その結果、上衣細胞及び微小血管におけるHSP72発現が明らかであったが、神経細胞には明らかな陽性像を認めなかった。動物実験では、高体温症が8時間以上持続した場合に神経細胞のHSP72発現が認められることから、以上の所見は、上衣細胞及び微小血管におけるHSP72発現は、1)高体温が発症したこと、2)高体温発症から8時間以内に死亡したことを示唆する可能性がある。したがって、覚醒剤中毒死例による高体温症の法医病理学的診断の精度向上に寄与すると考える
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