研究概要 |
われわれは,法医実務への応用を目標に,熱中症の診断学的位置づけの基本として,その発生メカニズムを検討している。そして,前回(平成19年度),熱中症ラットモデルにおいて各臓器への腸内細菌の侵入(Bacterial Translocation:BT)が確認され,このBTが熱中症の発生に重要であることを明らかにした。今回,細菌毒素(LPS)により体内に産生され臓器障害を生じさせるMAPキナーゼ(P38-MAPK)に着目し,熱中症における肝臓障害発生に果たすLPSの役割をMAPK阻害剤(FR167653)を用いて検討した。 雄Wistarラット(10週齢)を,42℃ホットプレート上で蓄熱させ熱中症モデル(Heat stroke群)を作製した。対照群としてSham群,FR投与群およびFR投与後に上記条件下で蓄熱させたFR+Heat群の4群について実験を行った。検査項目として,血清を用いた肝機能(AST,ALT)検査,肝臓でのTNFαmRNAの出現および好中球の発生頻度を検討した。蓄熱80分後にHeat stroke群で平均血圧(MAP)がピークに,FR+Heat群では蓄熱後100分後にピークとなった。蓄熱80分後のHeat stroke群で好中球の浸潤および肝臓障害発生が認められたが,FR+Heat群ではこれらの変化は抑制された。蓄熱100分後ではFR+Heat群での上記の抑制は起こらなかった。TNFαmRNAも同様な傾向が認められた。結論として,MAPK阻害剤を投与すると,蓄熱80分後ではLPSによる肝臓障害の発生は抑制されたが,蓄熱100分後には蓄熱によると思われる肝臓障害が発生したことになる。これまで,熱中症の発生因子のPrimary factorとしてLPSが,Secondary factorとして熱による直接的障害が指摘されているが,今回の検討において同様な機序によると考えられる結果が得られた。
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