研究課題
毒物混入事件、法医解剖及び救急医療の現場において、中毒原因物質を特定するための検査の前段階として、スクリーニングのもつ意義はきわめて大きい。本研究では、乱用薬物や医薬品類をターゲットとして、尿試料や遺留試料(粉末、錠剤など)から簡便、迅速、かつ特異性の高いスクリーニング法の開発を目的とした。直接導入型質量分析計(日立DS-1000)を用い、昨年度と同様の手法で以下に示す実験を行った。まず、MDEA、MBDB及びMDDMAを用いて位置異性体間の識別の可能性を検討した。MDEAとMBDBは明瞭に識別可能であったが、MDEAとMDDMAはマススペクトルに若干の差異は認められたものの、類似したフラグメントピークを与えた。本法は、他のスクリーニング法(例えば呈色反応やイムノアッセイなど)と比較し、特異性の優れた原理を利用しているが、構造が類似した違法ドラッグの近年の流通を考慮すると、その判定には注意が必要であると考えられた。押収されたエクスタシー錠(MDMA含有錠剤、MDMA及びメタンフェタミン含有錠剤、アンフェタミン及びカフェイン含有錠剤など)を約2分間隔で連続して分析したところ、いずれの試料もそれらの成分を正しく判定することができた。健康成人尿に薬物を添加した試料については、さまざまな程度のイオン抑制効果が認められた。そこで、尿試料を滴下後、アルカリ溶液を滴下し、同様に分析したところ、メタンフェタミンとMDMAについては、そのイオン抑制が抑えられ、ピーク強度が増大した。しかしながら、第1級アミンであるアンフェタミンとMDAについては、アルカリ溶液滴下による効果は限定的であった。薬物添加尿試料をアルカリ性下、有機溶媒抽出し、その有機層を同様に分析したところ、アンフェタミン及びMDAのピークは大幅に増大した。本法は、尿試料や遺留試料からの薬毒物スクリーニング法として利用可能であると考えられた。
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Forensic Toxicology 26
ページ: 19-22
Journal of Health Science 54
ページ: 615-622