癌患者の告知時などにおける強い精神ストレスにより、しばしば患者は錯乱状態やせん妄をきたす。そのようなせん妄状態は癌にとってプラスかマイナスかをせん妄マウスに癌細胞を移植し皮下腫瘍の進展を観察することにより研究した。せん妄のモデルマウスとしては神経伝達においてハイパードパミナージックな状態になっているドーパミントランスポーターノックアウトマウス(DAT-/-マウス)を作成し用いた。腫瘍の増大はコントロールワイルドマウスに比べて、DAT-/-マウスでは有意にっ増大が抑えられた。DAT-/-マウスの末梢血中のドーパミンは減少しており、腫瘍のドーパミン受容体を調べたところドーパミンD1受容体が減少していることが判明した。またドーパミン刺激により血管内皮細胞のVEGF受容体2の細胞表面の発現が減少していることがわかった。また細胞内Srcを介してVEGF受容体2の燐酸化を促進していることがわかった。以上のことを考えると、DAT-/-マウスにて腫瘍の増大が抑制される機序としてはハイパードパミナージックな状態により腫瘍の血管内被のドーパミンD1受容体が減少し、また末梢のドーパミンも減少する。それにより、ドーパミンD1受容体刺激により促進されていた血管新生が抑制され、固形腫瘍の増大が抑制されるものと考えられた。この研究より、せん妄状態は腫瘍の増大が抑制されることがわかったとともに、ドーパミンD1受容体が固形腫瘍の治療における新たな分子標的となりえる可能性が示唆された。
|