薬剤耐性H. pyloriに有効な新しい補完・代替療法として可能性が考えられる漢方薬(生薬)の抗菌作用の機構解明のため、薬剤耐性H. pylori菌株に対する直接作用と生体の免疫系を介する間接作用に分け、その抗菌作用を解析した。前年度までにin vitroにおいて強い抗菌効果が認められた生薬である大黄、黄連、茵陳蒿、丁子、甘草をH. pyloriを感染させたマウスに2週間投与した結果、in vivoにおいても同様の抗菌効果が認められた。しかしながら、短期間の投与では完全な除菌効果が得られなかったため、今年度は長期治療実験を行った。その結果、黄連、丁子、甘草が有効であることが明らかとなり、これらの生薬は薬剤耐性H. pyloriに有効な新しい補完・代替療法として有用であることが示唆された。一方、H. pylori感染症における病態形成機序の解明に関して、今年度はH. pylori感染症におけるIL-17の役割を明らかにするため、IL-17A遺伝子欠損マウスを用いて検討した。その結果、IL-17A遺伝子欠損マウスにおいてはこH. pylori感染6ヵ月後でも胃粘膜にほとんど炎症病変が認められなかった。また、炎症浸潤細胞の中でも好中球浸潤だけが有意に抑制され、感染局所のミエロペルオロシダーゼ活性が有意に低下していたことより、IL-17の欠損により好中球の浸潤が抑制された結果、炎症反応が抑制されていると考えられた。以上の結果、H. pylori感染症においては、従来知られていたTh1サイトカインに加え、新規に発見された炎症性サイトカインであるIL-17も胃炎の発症に重要な役割を果たしていることが示唆された。
|