研究概要 |
本研究の目的は,糖尿病態における虚血性脳障害の増悪メカニズムを明らかにするとともに,糖尿病の中枢神経障害を予防・改善する優れた抗酸化食品を探索し,その有効性と安全性とを科学的に検証することである。これまで,糖尿病の脳梗塞モデル動物において脳機能障害に対する抗酸化食品の効果の検討を行った結果,強い抗酸化活性をもつ霊芝菌子体培養培地抽出物(MAK)が糖尿病動物における酸化ストレスを軽減すること,および脳虚血再灌流障害に対して強い保護効果を示すことを明らかにした。グルタミン酸トランスポーターであるEAACIは,グルタミン酸のみならず,生体内抗酸化物質グルタチオンの成分であるシステインの細胞内輸送に関わる蛋白質である。糖尿病マウスおよびラットの海馬,大脳皮質では,EAACI mRNA発現量が約50%にまで有意に減少していることが明らかになったものの,MAKの投与はeaacl発現に対して顕著な影響を及ぼさなかった。一方,糖尿病ラットの皮質では,炎症性サイトカインであるIL-1β,TNF-αおよび脳浮腫に関与するmatrix metalloproteinase-9のmRNA量が虚血処置前においてすでに有意に増加しており,虚血再灌流によってこれらの発現が著しく増強されることが明らかになった。 さらに,虚血再灌流後早期において糖尿病ラットの脳脊髄液中に細胞傷害作用を有するHMGBIが増加することがわかった。虚血処置前にMAKを経口投与したラットでは,これら炎症関連因子の発現が抑制されていた。以上の結果から,糖尿病ラットの脳組織では持続的高血糖下の酸化ストレスによって炎症反応が惹起されており,このことが一因となって虚血再灌流による障害の増悪が生じることが示唆された。MAKは,糖尿病態における酸化ストレスおよび炎症関連因子の発現を低下させることにより,強い脳保護効果を表すことが明らかになった。
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