研究概要 |
乳児期母子分離ストレスモデル系の確立母子分離ストレスのみでは子の行動異常を発現させるためには不安定であることが判明し、その原因が母マウス側にあることを突き止めた。そこで母マウスに一定のストレスを与えるため母マウスに出産後から1日3時間拘束ストレスを負荷した。その結果母マウスには行動学上あるいは分子生物学上ほとんど異常は認められないにもかかわらず、子の成長傷害が惹起されることが明らかとなった。そしてその子が成長するにつれ多動を示す場合もあることが明らかとなった。この成長障害は母子分離ストレスだけでは引き起こされることはなく、また子の栄養状態には異常は認められなかった。従って、この成長障害それに続く行動異常は母マウスが子育て中に受けたストレスによることが明白となった。母子分離ストレスではこの成長障害までは惹起されないが、一定以上のストレスが母マウスに加わることで行動学的に異常に加え成長障害まで起こすという極めて重要に事実を明確にすることができた。 ソーシャルストレスモデル系の確立ソーシャルストレスの条件は前回の報告書であきらかにしたので割愛するが、長期のソーシャルストレス(1日1時間4週間)を負荷することで、マウス海馬でのBDNF発現が増加することを突き止めた。そしてその関連遺伝子(TrkB,CREB等)の発現増加も確認された。また、行動学的には恐怖条件付試験(CFC)で著明な無動時間の延長が認められた。このことは過度のソーシャルストレスはうつ症状を惹起する前に恐怖記憶を固定するためにBDNFが増加し、PTSD様の症状を引き起こすことが明らかとなった。このモデルは条件から所謂「いじめ」を受けたときの脳の異常を検討するためにも有益なモデル実験系が出来上がったものと考えられる。
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