研究概要 |
内視鏡的一括切除を行った大腸腫瘍104症例(LST54例、Polypoid50例)を対象に臨床病理学的特徴と分子生物学的特徴を検討した。パラフィン包埋腫瘍組織からマイクロダイセクション法にて採取した腫瘍細胞のDNAからKRAS、BRAF、PIK3CAの遺伝子変異をシークエンス法で解析した。同組織中のTP53とβカテニンの異常集積を免疫組織化学法により評価した。臨床背景では、LSTはPolypoid腫瘍に比して有意に女性(40.7%vs20%,P=0.021)、右側結腸発生(59.3%vs26%,P<0.001)が多かった。一方でLSTとPolypoidにKRAS、BRAF、PIK3CAの遺伝子変異頻度やTP53、βカテニンの発現パターンに有意差を認めなかった。しかしLSTをLST-G(35例)とLST-NG(19例)の2群にわけて検討した所、LST-GはLST-NGに比して有意にKRAS活性型変異の頻度が多く(54.3%vs21.1%,p=0.016),βカテニンの核染色の頻度が少なかった(37.1%vs68.4%,p=0.027)。この差がLSTの形態差によるのか多変量解析すると、KRAS,βカテニンとも、年齢、性別、LSTの部位、LSTの大きさ、癌組織の有無に統計学的有意差はなく、KRASでは肉眼型(NG/G)でオッズ比0.222、95%CI0.056-0.883、βカテニンでは肉眼型でOR4.512、95%CI1.124-18.11と、肉眼形態のみがKRASの活性型変異の有無、βカテニンの活性状態の有無と相関を示した。LSTはその形態形成にKRASとβカテニンシグナル系が重要な役割を担っている可能性が示唆され、発癌メカニズムを解明する上でも興味深い現象と推察された。
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