研究概要 |
免疫寛容は生体の恒常性を保つ上で重要な役割を果たしているが、動物モデルにおいてE3ユビキチン・リガーゼであるGRAIL,c-Cbl,ItchがT細胞の免疫寛容誘導に重要であることが報告されている。我々は、免疫寛容の破綻が疾患の発症に関わるとされている炎症性腸疾患患者においてそれらのユビキチン・リガーゼの関与について検討した。まず、ヒトCD4陽性T細胞に対し免疫寛容を誘導し、GRAIL,c-Cbl,Itchの発現を検討したところ、RNAレベルおよび蛋白レベルともに活性化状態あるいは無刺激の状態に比べてこれらのE3ユビキチン・リガーゼの発現は有意に高値であった。本検討により、ヒトT細胞においても動物細胞と同様に、ユビキチン・リガーゼが免疫寛容に関与していることが明らかとなった。次に、活動期および緩解期の潰瘍性大腸炎患者および健常者の末梢血CD4陽性T細胞を分離し、E3ユビキチン・リガーゼの発現を定量的RT-PCR法で検討した。緩解期の潰瘍性大腸炎患者でのGRAIL mRNA発現は、活動期潰瘍性大腸炎患者や健常者に比して有意に高値であった。このことから、緩解期の潰瘍性大腸炎患者ではユビキチン・リガーゼの発現を伴う免疫寛容が誘導されていることが示唆された。さらに炎症性腸疾患のモデルマウスであるIL-10ノックアウトマウスにおいて、GRAILなどのE3ユビキチン・リガーゼの発現を定量し、野生型マウスでの発現と比較したところ、ノックアウトマウスでは野生型マウスに比して、有意にユビキチン・リガーゼの発現が低下していた。このことから、炎症性腸疾患の動物モデルにおいても、ユビキチン・リガーゼの低下が炎症性腸疾患の発症に関わることが示唆された。我々の知る限り、E3ユビキチン・リガーゼと自己免疫疾患の関与を明らかにしたはじめての検討であり、原因不明の自己免疫疾患の治療への端緒となる可能性がある。
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