胃が痛い、胃が重いなどの上腹部を中心とする症状を訴える患者は多いが、このような症状を有する約半数の患者にはその原因を説明できる器質的疾患が認められない。このような症状発現の機序の一つとして内蔵知覚過敏の存在が指摘されている。胃の知覚は一般的に脊髄神経系を介する経路と、迷走神経を介する経路とが考えられているが、この2つの異なる経路の働きの違いなど、内蔵知覚に対する研究は少なく、未だ不明な点が多い。一方、MAPKの一員であるERKは、細胞内情報伝達に関与し、その活性化が脊髄後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)や脊髄などで認められ、痛みの発生やそれに伴う変化に重要であるとされている。最近、我々はラットの胃に侵害性伸展刺激を加えると、DRGおよび迷走下神経節(nodose ganglion:NG)においてERKの活性化が誘導されることを見いだした。侵害性伸展刺激によるERKのリン酸化は、2分がピークであり、TRPV1、ASIC3陽性の小型ニューロンが中心であった。DRGだけではなく、NGにおいてもERKの活性化がみられることを考えると、機械的刺激による侵害受容に迷走神経系も関与している可能性が考えられる。内蔵知覚における脊髄神経系と迷走神経系の役割の相違については更なる検討を要するものの、我々の知見は急性内蔵痛発生のメカニズムには脊髄ニューロンだけではなく、一次知覚ニューロンにおけるERKの活性化も重要な役割を担っていること、さらに多種多様の侵害刺激に対して反応する一次知覚ニューロンの活性化を細胞内情報伝達分子の動態より解析できる可能性を示唆している。これらの成果はGastroenterology等、数多くの国際誌に発表した(Gastroenterologyは印刷中)。
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