研究概要 |
炎症性腸疾患ではしばしば大腸癌(colitic cancer)の合併がみられるが,その早期発見は困難で化学的予防法の確立が急務である。本研究の最終目的は,ヒトcolitic cancerとcolitic cancer動物モデルでのIL-6 trans-signalingの関与を検討し,IL-6trans-signaling抑制によるcolitic cancer予防が可能か否かを明らかにすることである。まず今年度は,colitic cancerモデルの確立のため,マウスに3%デキストラン硫酸を長期投与して慢性大腸炎を作製し,発癌状態を確認した。その結果,炎症粘膜を発生母地としたdysplasiaやcancerが高率にみられることが確認できた。つぎに本モデルの大腸組織でのIL-6,IL-6R,gp130,STAT3,ADAM17の発現を免疫染色,flow cytometry,Western blotにより検討した。その結果,炎症部の浸潤細胞でのIL-6,slL-6Rの高発現,癌部の腸上皮細胞でのgp130,STAT3,ADAM17の高発現がみられ,colitic cancerでのIL-6trans-signalingの関与が示唆された。colitic cancerを有する潰瘍性大腸炎患者の生検組織を用いた検討でもマウスモデルとほぼ同様な結果が得られた。次年度は,マウスcolitic cancerモデルに対してIL-6 trans-signaling抑制剤であるsgp130を経静脈的に投与して病理肉眼所見,組織所見を対照群と比較検討するとともに,一方でIL-6 trans-signaling促進剤であるHyper IL-6を経静脈的に投与して同様の評価を行い,colitic cancerにおけるIL-6 trans-signalingのin vivoでの役割をさらに詳細に検討する予定である。
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