研究概要 |
近年、炎症性腸疾患を母地とした大腸癌(colitic cancer)の発生が問題となっているが、従来の炎症性腸疾患治療薬には十分な発癌予防効果のあるものは報告されていない。本研究では、マウスcolitic cancerモデルにおけるIL-6 trans-signaling抑制剤の有用性を検討した。まず、マウスに3%デキストラン硫酸(DSS)を長期投与してcolitic cancerモデルを作製し、大腸組織でのIL-6,IL-6R,gp130,STAT3,ADAM17発現を免疫染色、flow cytometry、Western blotなどにより検討した結果、colitic cancerモデルの大腸粘膜ではIL-6 trans-signalingの活性化が顕著であることが判明した。つぎに本モデルに対してIL-6 trans-signaling抑制剤である可溶性gp 130-Fc(10,100,500μg/mouse)を投与し、その有効性を検討した。本モデルに可溶性gp 130-Fcを予防的投与すると、投与量に依存してcolitic cancerの発生が抑制された。これらの結果により、colitic cancerではIL-6 trans-signalingの活性化がみられ、可溶性gp 130-Fcが大腸癌の発癌予防効果を有することが示された。すでにドイツでは、可溶性gp 130-Fcの炎症性腸疾患に対する臨床試験が開始されることが決定しているが、可溶性gp 130-Fcは炎症性腸疾患に対する治療効果を有するだけでなく、合併するcolitic cancerの予防効果を有する薬剤として臨床応用されることが期待される。
|