慢性肝疾患患者における肝線維化は、肝星細胞の活性化・増殖により促進される。申請者は、慢性肝疾患の新たな治療法を開発するため肝星細胞の活性化・増殖の制御に着目し、研究を推進してきた。平成19年度は、主に培養肝星細胞株(LI-90)を用いての実験を行った。平成20年度は、(1)マウス初代培養肝星細胞を用いた実験、(2)PDGFの代わりにTGF-β1を用いた実験、(3)マウスを用いた慢性肝障害モデルに対するin vivoの実験を中心に行った。In vivoの実験ではNAD(P)H oxidase阻害剤(DPI)、ROS消去剤(Mn-TBAP)、臨床的に使用されているROS消去剤エダラボン(ラジカット)を用い、肝線維化が抑制・改善するか調べた。 マウス初代培養肝星細胞においても、PDGF-BBは、NAD(P)H oxidase由来のROSを介し肝星細胞増殖をもたらした。またROSが肝星細胞のp38 MAPKのリン酸化を促進し、肝星細胞の増殖を導いた。TGF-β1を培地上清に添加すると、肝星細胞ではNAD(P)H oxidase由来のROSが長期間産生され、NAD(P)H oxidase阻害剤のDPIやROS消去剤のMn-TBAPは、ROS産生と肝星細胞増殖を抑制した。DMNと同時にDPI、Mn-TBAP、エダラボンを腹腔内に投与すると、DMNによる肝障害や線維化の進展は、著明に抑制された。また、DMNによる肝硬変マウスにDPI、Mn-TBAP、エダラボンを投与すると無投与群に比べ、肝障害や肝線維化は有意に改善した。 結論として、NAD(P)H oxidaseは、PDGFやTGFにより活性化され、ROSを産生して肝線維化 をもたらすことが明らかになった。NAD(P)H oxidaseの制御は、肝線維化の抑制につながり、臨床的にも大変重要で意義のあると考えられた。
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