スフィレゴシン1リン酸は細胞の生存・増殖・分化、血管系の構築をはじめとする種々の生体反応において重要な役を担うリン脂質メディエーターであり、in vitroにおいて肝細胞、星細胞といった肝臓を構成する細胞に作用することを我々は明らかにしてきた。これらの知見に基づき、スフィンゴシン1リン酸が肝障害において何らかの役割を果たしていることを示すものと考えて検討を行った。本年度はスフィンゴシン1リン酸受容体SIP2欠損マウスに肝障害を惹起させ、病態について詳細に検討することとした。まず、SIP2欠損マウスに四塩化炭素およびdimethylnitrosamineにより急性肝障害を起こしだところ、いずれのモデルにおいても肝細胞の再生は亢進し、dimethylnitrosamineによる急性肝障害では致死率が軽減されることが確認された。一方、四塩化炭素を4週間投与して肝線維化を作成したところ、SIP2欠損マウスでは線維化の程度が減弱していた。さらに、肝線維化において線維成分を活発に産生する星細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。前年度には肝臓に障害が加わるとSIP2のmRNA発現が亢進することを明らかとしていることを踏まえ、肝障害においてSIP2を介したスフィンゴシン1リン酸作用が一定の役割を担い、肝細胞の増殖停止機構、および星細胞の増殖促進を通じて創傷治癒機転に働くことが推定された。SIP2の作用抑制が肝障害治療の有力な選択肢として期待される。
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