【目的】骨髄幹細胞(HSC)はケモカインSDF-1に誘引され傷害臓器に遊走・生着する性質をもつ。しかしながら生体内SDFは半減期が短く、CD26やセリンプロテアーゼ・好中球エラスターゼなどに不活化されるので病態組織への遊走能が減弱されることが報告されている。そこで本研究では、肝硬変マウスにG-CSF/好中球エラスターゼ阻害剤の併用投与を行い、骨髄幹細胞の傷害肝への生着・治療効果が向上できる可能性がないかを検討した。 【方法】β-ga1陽性骨髄細胞キメラマウスに10%四塩化炭素1mL/kg体重週2回投与して肝硬変を作製した。同モデルにG-CSFやCD26阻害剤、エラスターゼ阻害剤を投与した後、肝組織におけるホーミング活性やHSCの肝細胞分化の程度・治療効果を観察した。 【成績】i)傷害肝ではSDF-1が発現上昇する一方、好中球エラスターゼ活性も著増しておりSDF-1活性減弱の原因のひとつであると推測された。ii)CD26阻害剤やエラスターゼ阻害剤で処理された骨髄細胞と傷害肝組織を共培養すると、HSC遊走能は数倍レベルに促進した。iii)G-CSF・エラスターゼ阻害剤を併用投与した動物群では、肝組織における骨髄由来細胞の生着が増加し、また肝酵素値も有意に改善した。 【結論】G-CSF投与により骨髄幹細胞を末梢血に放出させるだけでなくエラスターゼ阻害剤投与により障害肝組織のSDF-1不活化を抑制することが高効率な幹細胞治療につながる可能性が示唆された。 【今後の展望】本結果より得られた知見をもとに、臨床試験を目指したG-CSF投与プロトコール確立への期待が高まった。
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