ヒト自己免疫性膵炎(AIP)では、血清IgG、IgG4上昇に加え炭酸脱水酵素(CA-II)やラクトフェリン(LF)などに対する自己抗体が検出される。Toll-like receptor3のリガンドであるpoly I:CをMRLマウスに投与して発症する膵炎はヒトAIPに類似したモデルであり、この膵炎マウスモデルにおける自己抗体産生について検討した。膵炎マウスでは、免疫グロブリン分画は全体に増加し、特異的IgGサブクラスの増加は認められなかった。免疫組織学的検討では、膵臓の炎症細胞浸潤の主体はB220陽性細胞(B細胞)で、濾胞形成を伴い膵実質内に広範に浸潤がみられた。CD138陽性細胞(形質細胞)は濾胞近傍と問質に浸潤がみられた。CD4及びCD8T陽性細胞は主に濾胞周囲に認められた。血清自己抗体の検討では、ヒトAIPと同様にCA-IIやLFなどに対する自己抗体が認められ、抗LF抗体は45.8%に陽性で、抗CA-II抗体は3.3%に陽性であった。抗PSTI抗体は91.7%と高率に認められた。グルタミン酸脱炭酸酵素に対する抗体産生は認められなかった。さらに、SPINK3(マウスのPSTIホモログ)の合成ペプチドを作製し、抗PSTI自己抗体の抗原エピトープの決定を行った。膵炎マウス血清は合成ペプチド1(アミノ酸1-25)に82.3%が反応し、合成ペプチド2(17-41)に75%が反応したが、合成ペプチド3(32-56)に対する反応性は認められなかった。膵炎マウスの血清の大半がSPINK3蛋白のトリプシン結合部位(18-21)を含む合成ペプチドに反応性を示したことより。AIPにおける抗PSTI抗体産生がPSTI活性の抑制を介してトリプシンの活性化を促進し、膵炎の進展に関与している可能性が示唆された。
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