研究概要 |
脂肪肝で肝再生が障害されることは広く知られているがそのメカニズムは未だ十分に解明されていない。Adipocytokineの一つであるAdiponectin (Ad)は肝臓の脂肪酸代謝に関与しており、私どもはこれまでAdiponectinが肝臓において抗線維化および抗炎症作用を有することを報告してきた。今回はAdiponectinの肝再生への関与を検討するため、Ad欠損マウスにおける70%部分肝切除後の肝再生を検討した。【方法】12週齢、雄の野生型およびAd欠損マウスに70%部分肝切除を施行し、経時的にマウスより肝臓、血液を採取した。1)肝重量/体重比、免疫組織染色にてbromodeoxyuridine (BrdU)のlabeling index、 mitotic index(H-E染色上分裂像を示す肝細胞の比率)、Western blot法によるPCNA蛋白の発現を検討した。2)部分肝切除前、1.5,12時間後に前初期応答遺伝子(c-fos, c-myc, junB)の発現をrealtimeRT-PCRで、TNF-α, IL-6の血清濃度をELISA法で、肝での遺伝子発現をrealtimeRT-PCRで、STAT-3のリン酸化をWestern blot法で評価した。3)肝切除後の肝臓内の脂肪蓄積を肝中性脂肪量として測定し、脂肪酸代謝(β酸化)の律速酵素であるcarnitine palmitoyltransferase-1(CPT-1)遺伝子の発現を検討した。【結果】1)Ad欠損マウスの肝重量/体重比は、野生型マウスに比して24,48,72時間後で有意に低下していた。BrdUのlabeling indexは、48,72時間後にAd欠損マウスで有意な低下を認め、mitotic indexも同様に低下していた。またPCNA蛋白発現は48時間後Ad欠損マウスで有意に低下していた。これらの結果からAd欠損マウスで部分肝切除後の肝再生に障害があると考えられた。2)肝再生初期において、前初期応答遺伝子(c-myc, junB)の発現は、Ad欠損マウスで低い傾向を示したが有意な差は認めなかった。TNF-α, IL-6の発現、それに引き続くSTAT-3のリン酸化は両群間に大きな差を認めなかった。3)肝の中性脂肪含有量は、肝切除後72時間後においてAd欠損マウスで有意に増加していた。また、肝内(CPT-1)遺伝子は、肝切除後6,12,72時間後においてAd欠損マウスで有意に減少していた。【結論】Ad欠損マウスにおいて部分肝切除後の肝細胞増殖は障害されていた。このことからAdiponectinは肝再生に関与していると考えられた。肝内CPT-1遺伝子の減少からこの再生の障害には、脂肪酸代謝(β酸化)の低下の関与が考えられた。
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