研究概要 |
本研究は,肝細胞内情報伝達系におけるADAMの機能解析とC型肝炎ウイルス(HCV)による抑制機構を解明することを目的に立案した.平成19年度の研究においてRNAi法を用いたADAM17の発現抑制系を構築することにより,EGF情報伝達系においてADAM17はErkのリン酸化を増強するとともにErkの下流に存在してapoptosisを抑制するBadを活性化する機能を有することを明らかとした.また,EGF情報伝達系におけるBadにはErkを介するSer112,Ser155とAktを介するSer136の3ヶ所のリン酸化部位が存在するが,ADAM17によるBadの活性化はErk特異的でSer112のみがリン酸化されることを解明した. 平成20年度の研究においては,ADAM17と同様にSH3 domain binding siteを有するHCV NS5A蛋白質が,肝細胞由来株でのEGF情報伝達系におけるADAM17の機能にいかなる影響を与えうるかを解析することを目的とした.HCV repliconシステムとRNAi法によるADAM17の発現抑制系を用いADAM17によるEGF刺激下でのErkおよびBadの活性化をNS5Aの発現の有無で対比したが有意な差異は認めなかった.HCV repliconシステムでは実験系がHuh7細胞に限局されるので他の肝細胞株で検証するためにアデノウイルスベクターによるNS5A発現系を構築し,PLC/PRF/5細胞およびHepG2細胞でNS5Aを発現させ,ADAM17のsiRNA導入の有無でのEGF情報伝達系のErkおよびBad活性化を検討したが,有意な差異は認めなかった.これらの結果より,HCVのNS5A蛋白質はADAM17と同様にSH3 domain binding siteを有するが,ADAM17のEGF情報伝達系におけるErkおよびBadの活性化には影響を及ぼさないと考えられた.
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