研究概要 |
マウス肝幹/前駆細胞としての性状を確認したHSCE細胞の増殖、細胞増殖シグナルおよび生存シグナルに対する劇症肝炎患者(FH)血漿の影響を検討した.培養開始時の細胞数に対する48時間後、72時間後の生細胞数は、30%正常血漿下でそれぞれ、243±11.4%,157.9±10.7%,30%FH血漿下でそれぞれ、351±5.3%,317±54.4%とFH血漿下で有意に高かった. HSCE内のAKT, ERK, I-κBα, P38MAPK, JNK, STAT3のリン酸化をサスペンジョンアレイシステム(BioPlex; BioRad社)で測定したところ、AKT, ERK, I-κBαは30%FH血漿刺激により一過性の強いリン酸化を示し、この変化は10ng/mL HGF刺激とほぼ同様の傾向であった.一方、JNKは30%FH血漿下で5-60分ににわたり、200-350%のリン酸化の増強を認めたにもかかわらず、10ng/mL HGF, 50ng/mL. EGF, 30%正常血漿の何れにおいても有意のリン酸化を示さなかった.このことから、細胞増殖実験において見られた30%FH血漿刺激による増殖促進が、 JNKを介する可能性が考えられたため、 JNK inhibitorであるSP600125 20μMでJNKを阻害した状態で増殖実験を行ったところ、30%FH血漿で見られたHSCEに対する増殖活性は約1/3に抑制された.初代培養肝細胞では30%FH血漿によるJNKリン酸化は認められなかった.以上のことから、劇症肝炎血漿中には肝幹/前駆細胞の増殖を促進する物質が存在し、その作用はJNK活性化を介している可能性が示唆された.今回の検討では、増殖促進因子の同定までは至らなかったが、これまで知られているEGFやHGFとは異なる因子による肝幹/前駆細胞特異的な増殖促進機構が存在することが示唆され、因子同定の臨床的重要性が確認された.
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