研究概要 |
アルコール性肝障害ならびに腸管虚血再灌流惹起性肝障害の進展には、共に酸素ストレスや腸管由来のエンドトキシンの増加、それに伴う内皮細胞上の接着因子を介した白血球の膠着が関与することが知られている。今回、肝における適正飲酒の効果についての解明の一端として、ラットを用い、アルコールの腸管虚血再灌流惹起性肝障害に対する影響に加え、ischemic preconditioning(IP)との共通性について検討した。Wistar系雄性ラットに、生理食塩水、10%(1g/kg)あるいは40%エタノール(4g/kg)を胃管より投与した。ラット肝表面を観察し、上腸間膜動脈を結紮し、30分後虚血を解除(再灌流)し肝微小循環を評価したところ、生理食塩水投与と比較し10%エタノール投与は腸管虚血再灌流による肝微小循環障害を改善し、40%では増悪した。腸管粘膜透過性は差を認めなかったが、TNF-αの血中濃度は10%では減少し、40%では増加した。血中ALT値も10%投与では改善し、40%投与では増悪した。肝組織も同様の結果であった。このことより、腸管虚血再灌流惹起性肝障害において、低濃度のエタノール投与はTNF-α産生を抑制し肝微小循環障害、肝障害を抑制することが示唆された。一方、高濃度のエタノール投与ではそれぞれ増悪することが示唆され、低濃度のエタノールのIP効果が示された。IPにはAdenosineが関与することが知られている。これらのモデルにそれぞれadenosine A1,A2受容体に対する拮抗薬を経門脈的に投与したところ、A2受容体拮抗薬にて10%エタノール投与群で肝微小循環障害、ならびに肝障害が増悪することが示され、低濃度エタノールによるischemic preconditioning効果にはadenosine A2受容体を介した経路の関与が示唆された。
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