肝炎ウイルス感染やアルコールの過剰摂取など、様々な原因で肝臓の線維化が引き起こされる際には、肝臓組織中にコラーゲンをはじめとするマトリックス成分が過剰に蓄積する。組織におけるコラーゲン含量は合成系と分解系の適切なバランスの上に維持されているが、近年骨髄から線維肝組織へ流入した細胞がコラーゲンを産生して線維化の進展に関わるという報告がなされた一方で、骨髄由来細胞がコラーゲン分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-13を産生して線維化改善に寄与するという本研究者自身の報告もあり、未だ一致した見解は得られていない。 そこで本研究では、コラーゲンプロモーターと緑色蛍光、MMP-13プロモーターと赤色蛍光を連結した遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスを作製して、コラーゲンとMMP-13の産生を単一細胞レベルで高感度かつ特異的に検出して、包括的に解析する系を確立した。 このマウスの骨髄細胞を移植したレシピエントマウスに四塩化炭素を反復投与して肝線維症を誘導すると、線維化進行期の肝組織内に緑色蛍光は観察されず、骨髄由来細胞におけるCOL1A2プロモーターの活性化は認められなかった。一方、四塩化炭素の投与を中止した後の線維化回復期には、骨髄由来細胞がMMP-13やMMP-9を順次発現して、線維化の改善に寄与する所見が得られた。現在、効果的な肝線維症治療法の臨床応用を目指し、骨髄細胞の線維肝組織への動員とMMP-13産生細胞への分化誘導を促進する物質を探索して、これに基づく新規治療法の開発に取り組んでいる。
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