哺乳類の心筋細胞がなぜ増えないのか解析する研究は、心筋細胞・神経細胞などの終末分化細胞の分化状態の維持機構の解明のみならず、未だ発展途上にある虚血性心疾患や特発性心筋症に対する心筋再生治療法の開発につながる可能性かおり、重要性が高い。研究代表者はこれまでにラットを用いた実験で、細胞周期アクセル分子であるサイクリンD1が心筋の血清やGrowth刺激によって誘導されるものの核への局在が障害されており、実際には心筋の細胞周期は活性化されないことを見出し、サイクリンD1に核移行シグナル(NLS)を付加し強制的に核内に移行させることによって心筋の細胞周期が廻ることを発見した。つまり、心筋の細胞周期はサイクリンD1の核内移行のアクセル段階とp27蓄積のブレーキの段階で強固に阻害されている。そしてこれらの知見に基づき、アクセル分子の核移行(サイクリンD1の核内発現)とブレーキ因子の分解(Skp2によるp27分解)との両方を組合せることによって、in vitroおよびin vivoで心筋が著明で安定した分裂を誘導できることを報告した。本研究では、サイクリンD1NLS・Skp2のラット心筋(in vivo)への導入が、細胞周期活性化マーカーであるKi67、分裂期マーカーであるリン酸化ヒストンH3、AuroraBキナーゼの発現とCytokinesis(細胞質分裂)を伴う完全な心筋細胞分裂を誘導し、ラット心筋梗塞心不全モデルの心機能・心不全を改善できることを見出した。また、サイクリンD2・D3はD1と違い、核内に発現するが、サイクリンD1NLSと比較すると、細胞周期活性化能が低いことも見出した。以上の結果は、心筋細胞の増殖抑制メカニズムには、サイクリンD1の核局在障害とCDK阻害因子の蓄積が重要な鍵であることを示唆している。さらに、サイクリンD1の核局在障害の原因を、(1)核内への移行、(2)核内分解、(3)核外移行の亢進、について解析したところ核内への移行が障害されていることが明らかになった。
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