研究課題
基盤研究(C)
哺乳類の心筋は生後終末分化すると増殖能を失う。哺乳類の心筋細胞がなぜ増えないのか解析する研究は、心筋細胞・神経細胞などの終末分化細胞の分化状態の維持機構の解明のみならず、未だ発展途上にある虚血性心疾患や特発性心筋症に対する心筋再生治療法の開発につながる可能性があり、重要性が高い。研究代表者はこれまでにラットを用いた実験で、細胞周期アクセル分子であるサイクリンD1が心筋の血清やGrowth刺激によって誘導されるものの核への局在が障害されており、実際には心筋の細胞周期は活性化されないことを見出し、サイクリンD1に核移行シグナル(NLS)を付加し強制的に核内に移行させることによってin vitro, in vivoにおいて心筋の細胞周期が廻ることを発見した。さらに、サイクリンD1の核局在障害の原因を、(1) 核内への移行、(2) 核内分解、(3) 核外移行の亢進、について解析したところ核内への移行が障害されていることが明らかになった。本研究ではサイクリンD1の核内移行障害の責任領域(アミノ酸範囲)を明らかにするために、複数の欠失変異または点変異を有するサイクリンD1の蛋白質とアデノウイルスベクターを作成し、in vitroおよびin vivo核移行アッセイを行った。その結果C-末のわずか10アミノ酸前後の配列がサイクリンD1の核内移行を抑制的に制御している可能性があることを見出した。心筋細胞の再生能とサイクリンD1の構造とを動物の進化段階に応じて比較すると、我々が同定した責任アミノ酸領域は、心筋再生能を有するフグやZebrafishなどの魚類やXenopusなどの両生類では見られず高等動物に進化するにつれて現れてくるということを見出している。また、サイクリンD2・D3にはみられない。この構造の違いがサイクリンD1の核移行阻害・心筋終末分化に伴う分裂停止に深く関わっていると考えられ、今後再生医療へ大きく発展する可能性がある。
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