インスリン様成長因子I(IGF-I)は心筋収縮性亢進、血管新生促進、抗アポトーシス作用、心筋肥大・再生促進など多面的作用を有することが知られ、臨床的な有用性はまだ確立していないものの、IGF-Iの血管内投与や局所的な遺伝子発現が心筋虚血や心不全の病態に対し治療効果をもたらすことが期待される。H20年度に実施した本研究の目的は、II型糖尿病モデルのdb/dbマウスを用いて、糖尿病心の虚血・再灌流障害の病態を解明するとともに、糖尿病心の虚血・再灌流障害においてIGF-I投与が治療効果をもたらすかを明らかにすることである。前年度と同様に、db/dbマウスを用いて心筋虚血・再灌流モデルを作製した。db/dbマウス(糖尿病)およびdb/m^+マウス(コントロール)において全身麻酔下で左冠動脈の一時的閉塞により30分間虚血を施した後に再灌流させたところ、非糖尿病マウスと比べ糖尿病マウスでは急性期死亡率が高く、再灌流24時間後の梗塞サイズは有意に大きかった。また、組織学的検討では糖尿病マウスにおいて左室灌流域のアポトーシスがより高率に見られた。IGF-I投与により十分な血中濃度が得られ、血行動態に影響を及ぼさないことを確認し、虚血後(再灌流前)にヒトIGF-Iを投与したところ、db/dbマウスの急性期死亡率は改善し、IGF-I非投与(生食)群に比較して24時間後の梗塞サイズが縮小した。また、組織学的検討においてもIGF-I投与群でアポトーシスが抑制された。今後はIGF-Iの保護効果に関する分子的機序について、さらなる検討を追加していく予定である。
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