研究概要 |
組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)は血管内線溶を担う主要なセリン酵素であり,急性心筋梗塞や超急性期の脳梗塞における血栓溶解薬としてその有益性が認められている。近年tPAの線溶活性以外の作用として,血管壁や脳など細胞に対する直接作用が注目されつつあるが,その作用機序はよく分かっていない。 我々は,tPAが他のセリン酵素と異なり一本鎖の活性型酵素として血管内皮細胞から分泌されることから,分泌の多寡がその作用発現に直接影響する可能性に着目し,本研究では血管内皮細胞におけるtPA分泌顆粒の開口放出動態の可視化を試みた。ヒト臍帯静脈内皮細胞由来細胞株にGFP融合tPA遺伝子を導入し,分泌顆粒中に発現したtPA-GFPを,細胞膜近傍約100nmのみを励起する全反射蛍光(TIR-F)顕微鏡にて観察した。tPA-GFP蛍光強度の経時変化より開口放出現象を解析したところ,(1)tP分泌顆粒は開口後早期に再取り込みされることなく開口状態で数分以上は滞留すること,(2)開口放出されたtPAはN末端側の重鎖を介して開口状態の顆粒膜表面に結合していること,(3)tPAの特異的インヒビターであるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)は,膜表面に結合しているtPAと高分子複合体を形成することにより,膜結合tPAの液相中への移行を促進することを明らかにした。 これらの結果は『開口放出後の膜結合tPAによる酵素活性をPAI-1は阻害する』という血管内皮表面における新たな線溶活性調節機構を示唆するものであり,この概念を立証するため,現在PAI-1 siRNAを用いたPAI-1発現抑制細胞において開口放出後のtPAによる酵素活性を検出することを試みている。
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