1. メタボリックシンドロームに合併する脂質代謝異常におけるELの役割 メタボリックシンドロームでは内臓肥満に基づき、低HDL、高TG血症などの脂質代謝異常を合併し、動脈硬化を促進する。そこで、インスリン抵抗性のモデルであるdb/dbマウスにおいてELの発現をreal-time PCRで検討した。db/dbマウスでは肝臓におけるEL発現が野生型マウスに比べて増加していた。肝臓におけるEL発現増加の意義を明らかにするために、アデノウイルスベクターに組込んだヒトELをdb/dbおよび野生型マウスに遺伝子導入し、肝臓にELを強発現させた。肝臓におけるELを強発現は、血清HDL-C値と血清中性脂肪値を低下させるとともに、肝臓の重量と中性脂肪含量を増加させた。とくに、db/dbマウスでは肝臓にELを強発現は、脂肪酸合成酵素の発現を亢進し、脂肪肝を増悪させた。以上のことから、メタボリックシンドロームやインスリン抵抗性の状態では肝臓におけるEL発現が亢進しており、肝臓への脂肪の取込みを促進し脂肪肝の原因と成ることが示唆された。この作用はとくにdb/dbマウスにおいて著しいことから、ELはメタボリックシンドロームにおける低HDL血症と脂肪肝の原因分子として機能していることが明らかとなった。 2. マクロファージに対する炎症性刺激におけるELの役割 メタボリッシンドロームは脂肪組織におけるマクロファージ浸潤がみられ一種の炎症性疾患であるという一面をもつ。そこで、EL欠損マウスおよび野生型マウスより腹腔マクロファージを培養しリポポリサッカライド(LPS)で刺激し、EL発現やLDLの取込みを評価した。LPSはマクロファージにおけるEL発現とNADPH oxidaseの発現を亢進させ、native LDLの取込みを促進した。LPSによるELとNADPH oxidaseの発現亢進はTLR4欠損マクロファージでは認められず、N-acetylcysteinなどで抑制されることから、TLR4と酸化ストレスを介するものであった。また、EL欠損マクロファージではnative LDIの取込みが減弱していた。さらに、LPSによるEL発現とnative LDLの取込みはシンバスタチンにより抑制された。以上より、マクロファージにおけるELは炎症刺激によって発現が増加し、酸化ストレスを介してコレステロールの取込みを促進することが明らかとなった。
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