1.ヒト血中EL濃度と血清脂質との関係 血管内皮リパーゼ(EL)の発現は種々の炎症性刺激により亢進し、増加したELは血清HDL値を低下させる。今回我々は、ヒト血中EL濃度と血清HDL-C値との関係を検討するとともに、スタチンによるHDL上昇作用におけるELの役割を検討した。1)心血管疾患を有する患者から採血し、ヒトELサンドイッチELSAを用いて血中中EL濃度と血清脂質との相関を検討した。血中EL濃度は血清HDL-C値と有意に逆相関したが、LDL.コレステロール、中性脂肪値とは相関関係はなかった。血清EL濃度は年齢や性別による差は認めなかった。2)高脂血症患者に対してピタバスタチン1-2mgを6ヶ月間投与し、投与前後の血中EL濃度を比較検討した。高脂血症患者におけるピタバスタチン投与後の血中EL濃度は、投与前に比べて15%低下したとともに血清HDL-C値は12%上昇した。3)ピタバスタチンは血管内皮細胞において無刺激状態および炎症性サイトカイン刺激によるEL発現を抑制した。以上より、ヒトにおいて血清EL濃度はHDL-C値と逆相関する。スタチンは内皮細胞においてEL発現を抑制するとともに血清HDL-C値を増加させる。以上より、ELはHDL増加療法に対する治療標的となる可能性が示された。 2.Paloxamer-407(P-407)誘発性高TG血症に伴う低HDL、血症におけるELの役割 EL欠損マウス(ELKO)および野生型マウス(WT)にP-407 0.5g/kgを腹腔内投与し、高TG主体の高脂血症を作製し血清脂質の解析を行い、ELの欠損による低HDL血症の程度を比較検討した。WTに比してELKOでは負荷前からHDLが70%上昇するとともに、HDL粒子が大型化していた。また、LDLは軽度増加していたが、VLDLには変化がなかった。これらのマウスにP407を単回投与することによりTGが増加し著しい高中性脂肪血症が惹起されたが、その程度は両群間で差がなかった。P407投与により両群ともHDLは減少したが、ELKOではWTに比してHDLが79%高値で、HDL粒子が大型化していた。すなわち、高TG血症に合併する低HDL血症がELの不活性化により改善することが示唆された。
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