Liver X receptor(LXR)は核ホルモン受容体転写因子の一つであり、主にコレステロール逆転送系に関わるABCトランスポーター遺伝子などの発現を調節している。一方でサイトカインの発現を抑制し、抗炎症作用が報告されている。LXRのリガンドはoxysterolなどの酸化されたコレステロールとされるが、その心血管系への影響は十分には知られていない。レニン・アンジオテンシン系は心血管病変の形成に重要な役割を果たす。本研究ではまず、LXRの合成リガンドであるT0901317が血管平滑筋細胞のアンジオテンシンIIタイプ1受容体(AT1R)の発現を抑制することを報告した。この機序には細胞周期に関わるp16遺伝子の発現の増加および、AT1R遺伝子のプロモーター領域に結合するSP-1転写因子の脱リン酸化が重要であることを見いだした。AT1Rの発現低下は血管平滑筋細胞のアンジオテンシンIIに対する反応性を低下させることも確認した。ついで、AT1Rの発現に対する長寿遺伝子の影響を検討した。カロリー制限は様々な生物の寿命を延長させることが報告されているが、その過程においてSIRT1と呼ばれるピストン脱アセチル化酵素が重要な役割を果たすことが知られており長寿遺伝子の一つと考えられている。またSIRT1は赤ワインなどに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロールにより活性化されることが報告されている。血管平滑筋細胞のAT1Rの発現はレスベラトロールおよびSIRT1の過剰発現により抑制された。また、レスベラトロールの投与はマウスの大動脈におけるAT1Rの発現を抑制した。レスベラトロールを投与されたマウスではアンジオテンシンII投与による血圧上昇や心臓の冠動脈周囲の線維化が減少していた。これらの結果より、SIRT1による長寿においてレニン・アンジオテンシン系の抑制が関与する可能性が示唆された。
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