研究概要 |
【目的】不安定プラークの破綻機序における骨髄AT受容体の働きを明らかにすること。 【方法】1)骨髄移植モデルを用いた動物実験:8週齢アポE欠損マウスに全身X線照射後、AT1欠損マウスまたは野生型マウスの骨髄細胞をそれぞれ静脈内投与し、骨髄移植モデルを作製した。移植後4ヶ月後より高脂肪食を2ヶ月間投与した後、組織学的検討および骨髄細胞および末梢血をフローサイトメトリー法を用いて解析した。2)骨髄造血系幹細胞(HSC)の分離培養実験:HSCから単球系前駆細胞への分化・増殖過程における骨髄AT1受容体の作用機序を検討するため、AT1欠損マウスおよび野生型マウスの骨髄細胞よりFACSAriaを用いてHSCsを分離し、M-CSF刺激培養下における単球系前駆細胞数の変化を経時的に検討した。また、分離したHSCおよび単球系前駆細胞におけるM-CSF受容体(c-Fms)の発現およびそのシグナル伝達経路について解析した。 【成績】1)骨髄AT1欠損マウスでは対照マウスに比べて動脈硬化形成が有意に抑制されていた(31%、P<0.05)。ドナーマウスおよび移植4ヶ月後のマウスにおける単球系前駆細胞数および末梢血単球数は両群間で差を認めなかった。一方、高脂肪食開始2ヵ月後のマウスでは、HSC数は両群間で有意差を認めなかったものの、単球系前駆細胞数は骨髄AT1欠損マウスにおいて有意に減少しており(4.7±0,7vs10.2±1.4x10^3cells/tibia、P<0.05)、高脂肪食開始後における単球系前駆細胞への分化・増殖がAT1受容体欠損マウスでは抑制されていることが示唆された。2)M-CSF非投与下におけるHSC培養実験では、単球系前駆細胞数の増加は両群間で同等であった。一方、M-CSF投与下では単球系前駆細胞数の増加がAT1欠損HSC群で有意に抑制されていた(40%、P<0.01)。M-CSFの受容体であるc-Fmsの発現はAT1欠損HSCおよび単球系前駆細胞において著明に低下し(39%、60%、P<0.05)、c-Fmsのシグナル伝達経路であるPKC-δおよびJAK2のリン酸化も著明に抑制されていた(80%、75%、P<0.05)。 【結論】骨髄細胞AT1受容体は、HSCおよび単球系前駆細胞におけるM-CSF受容体の発現調節を介してHSCsから単球系前駆細胞への分化・増殖を促進し、動脈硬化形成の進展に関与する。
|