マルファン症候群(MFS)・遺伝性大動脈解離症候群(TAAD)・Loeys-Dietz症候群(LDS)はいずれも若年性大動脈解離を高率に合併する遺伝性疾患群であり、大動脈合併症の早期発見及び早期治療が、生命予後を決定するともいえる。これらの疾患における遺伝的素因の関与を明らかにするとともに、遺伝子型・表現型相関解析を行い、MFSの日本人患者における診断基準の妥当性を検討することを目的とした。具体的には、MFS及びLDSを含む若年性大動脈解離性疾患患者169例より収集したゲノムDNA、大動脈置換手術を受けた患者50例については摘出大動脈組織および血管平滑筋初代培養細胞より抽出したRNAを用いて、遺伝子解析を行い、93例でFBN1遺伝子変異、3例でTGFBR1遺伝子変異、7例でTGFBR2遺伝子変異、1例でCOL3A1遺伝子変異、1例でFBN2変異、9例でACTA2遺伝子変異を同定した。また、MFS類縁疾患患者の解析では、臨床所見のそろった135例について、現行の診断基準であるゲント基準との適合性を検討したところ、現行の診断基準では、MFSとLDSを臨床的に鑑別できないことが明らかとなるとともに、遺伝子検査がこれらの疾患の診断において重要な役割を果たしていることも確認された。その他、FBN1遺伝子変異を認めた発端者について、遺伝子型と臨床型との相関を検討した。また、非症候群性の若年性大動脈解離性疾患患者(家族発症例または弧発例)60例中9例においてACTA2遺伝子変異を認めたことより、これまでの候補遺伝子に比べてこの遺伝子の変異寄与率が大きいことが示唆された。
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