根治的な治療方法が確立されていない慢性閉塞性肺疾患(COPD)を始めとする多くの呼吸器疾患に対して肺構成細胞の再生治療は『既存の肺構造の破壊』に対する治療ストラテジーの一つとして重要な課題である。我々は線維芽細胞株と薬剤誘導遺伝子発現システムを組み合わせてinduced pluripotent stem(iPS)細胞の樹立を試み安定した細胞株の樹立と肺構成細胞の分化機序を検討した。幹細胞誘導遺伝子導入による幹細胞の樹立には、一定期間の幹細胞誘導遺伝子の発現の維持が必要である一方、成熟細胞への分化にはその幹細胞誘導遺伝子の発現抑制が必須となる。この原理を達成し肺構成細胞の誘導を確立させるために、薬物誘導遺伝子発現システムを用いて幹細胞誘導遺伝子の発現調節を試みることに着目した。 Doxycycline調節iPS誘導遺伝子導入細胞株をTet-On導入H1299細胞株、Tet-On導入NIH3T3細胞株、Tet-Off導入MEF3T3細胞株において樹立した。今後DoxycyclineにおいてiPS誘導遺伝子発現の調節を行い、iPS細胞への分化誘導を試みる予定である。この条件が適正に設定されることにより、均一なiPS細胞株を提供することができると想定される。また、この細胞株は一旦分化した状態となってもDoxを新たに投与することによるiPS誘導遺伝子発現が可能となることが利点となり得て、再現性が保たれると想定される。これにより、肺構成細胞への誘導をもたらす条件設定が一旦設定された際、繰り返し肺構成細胞を誘導することが可能となり、肺組織の再生医療の基礎となりうると考えられた。
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