研究概要 |
EGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬は肺非小細胞肺癌の新規分子標的薬である。EGF受容体遺伝子変異が効果予測因子の有力な候補として考えられている。しかしながら、EGF受容体遺伝子変異だけでは必ずしも効果予測が確実ではない。一方、肺癌マウスモデルにおいては、肺腺癌細胞からSP-Dが産生され、血中SP-Dレベルと腫瘍の進展との関連が報告され、EGFシグナルによってSurfactant蛋白の産生が調整されている。以上により、EGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬のSP-D産生・分泌の抑制効果が、肺癌細胞の標的となっており、血中のSP-DがEGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬の効果予測因子となるかどうかの可能性について検証を行った。 申請者は今年度、肺癌患者では血中SP-D高値例にEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の奏効例が多く、治療によって血中SP-Dが低下することを見いだした。また、無増悪生存期間の単変量解析にて、腺癌、血中SP-D高値の2因子が有意な効果予測因子となっていた。無増悪生存期間の多変量解析でも、腺癌(ハザード比0.102、95%信頼区間0.031-0.334)、血中SP-D 10ng/mL高値(ハザード比0.939、95%信頼区間0.892-0.989)は独立した予後因子であった。さらに,EGF受容体遺伝子変異例の血中SP-D中央値は76.1ng/mL、EGF受容体遺伝子野生例の血中SP-D中央値は41.3ng/mLと比較して有意に高値であった。EGF受容体遺伝子変異によって血中SP-Dを産生しやすい性格を有し、EGF受容体遺伝子変異のサロゲートマーカーとして血中SP-Dが利用できる可能性が示唆された。
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