老化はCOPDの重要な危険因子であるが、肺の老化がCOPDの発症を促進する機序は不明である。そこで前年度に引き続き、細胞死と老化仮説に基づいたCOPDの発症機序について、ヒト肺組織、培養細胞、マウスを用いた実験を行った。その結果、以下の3点の成績が知られた。1)COPD患者の末梢気道では、老化関連サイクリン依存性キナーゼ阻害蛋白であるp16を発現した老化クララ細胞が増加していた。これらの老化細胞では、リン酸化p38-MAPKを共発現していたことから、クララ細胞の老化が気道炎症の悪化の原因となることが示唆された。2)培養クララ様(NCI-H441)細胞にテロメラーゼ阻害薬やBrdUを添加して老化させたところ、培養上清中にTNFa、IL-6、IL-8などの炎症性サイトカインが増加し、ウエスタンブロッティング法ではp38-MAPKのリン酸化が確認された。3)末梢気道のクララ細胞を傷害するナフタレンと細胞老化を誘導するBrdUをマウスの腹腔内に1ヶ月間反復投与してクララ細胞が老化したマウスモデルを作成した。その結果、クララ細胞老化マウスでは、気道上皮の再生が抑制され、気道壁の白血球(CD45陽性)浸潤が増加していた。免疫染色では、老化したクララ細胞にリン酸化p38-MAPKが陽性に染色された。以上のヒト肺組織、培養細胞、動物を用いた実験から、COPD患者では末梢気道のクララ細胞が老化していること、さらに老化したクララ細胞ではp38MAPKが活性化して気道炎症の原因となる可能性が示された。今年度の成果とこれまでの研究成績を総合すると、気道や肺の老化が組織の再生障害と炎症をもたらし、COPDの発症を促進すると考えられた。
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