研究概要 |
先端肥大症(acromegaly)患者には,下部消化管をはじめとする複数の臓器に悪性腫瘍が発症する.これまで,われわれは肺に多発性の肺癌を発症した先端肥大症の症例を複数例経験し報告した.これらの症例ではHardy手術後の残存下垂体腫瘍からの成長ホルモン(GH)の作用で,肝臓や間葉系細胞によるsomatomedin(insulin-like growth factor 1,IGF-1)の産生が亢進し,このため血中IGF-1が持続的に高値を示すのみならず,肺癌細胞においてIGF-1受容体(IGF-1R)が強発現していることを見出した.すなわち,[IGF-1]-[IGF-1R]系は強力な細胞分化増殖因子であり,IGF-1Rを発現する肺内の腫瘍細胞の増殖が起こること,さらにIGF-1自体がIGF-1Rの発現をupregulateし得ることが推定される. これらの仮説を検証するため,虎の門病院内分泌センター/間脳下垂体外科で診療を受ける20歳以上の成人先端肥大症患者の肺癌合併頻度を胸部CTスキャンを用いて検討し,肺癌合併例では,血中のIGF-1,下垂体手術時の腫瘍内のIGF-1産生状況,摘出した肺癌組織中のIGF-1R発現などを解析し,IGF-1およびIGF-1Rの病的発現亢進状態が肺癌発症に及ぼす影響を解析する前向き試験を開始した.成人先端肥大症患者の入院時に胸部CTを撮影し,肺内に何らかの異常影が指摘された場合は,さらに高解像度CTスキャン(HRCT)を施行する.肺癌(とくに細気管支肺胞上皮癌,BAC)や異型性腺腫様過形成(AAH)を示唆する肺野の限局性GGOや,肺癌を疑わせる結節などの病変が見出された場合に,患者の臨床的背景,肺癌の鑑別診断に必要な諸検査,血中のIGF-1濃度測定,胸部CT所見の綿密な解析を行い,肺原発のBAC,AAH,あるいは通常の肺癌の存在が強く疑われる場合,開胸術あるいは胸腔鏡下手術(VATS)による外科的治療の適応を厳密に検討し,治療に関する説明および同意を得て手術的治療を行ない,さらに摘出組織を用いたIGF-1受容体発現(免疫組織学的検査,ISH),腫瘍組織と近傍の正常組織におけるcDNA microarray解析を行なう. 現在症例を集積し研究を継続中である.これまで報告した症例に加え,新たに68歳の先端肥大症Hardy手術既往患者で,右肺内に同時多発性の2つの肺腺癌(上葉S3:高分化乳頭腺癌,下葉S7:中等度分化混合型亜型癌)を発症し,胸腔胸下切除術+術後補助化学療法を施行した症例を新たに報告した.
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