研究概要 |
先端肥大症(acromegaly)患者には下部消化管をはじめとする複数の臓器に悪性腫瘍が発症する頻度が高い.これまで,われわれは肺に多発性の肺癌を発症した先端肥大症の症例を経験し報告してきた.これらの症例では手術前の下垂体腫瘍,あるいは術後の残存腫瘍からの成長ホルモン(GH)の作用で,肝臓や間葉系細胞によるsomatomedin(insulin-like growth facor 1,IGF-1)の産生が亢進し,この結果血中IGF-1が持続的に高値を示すのみならず,肺癌細胞においてIGF-1受容体(IGF-1R)が強発現していることを見出した.すなわち,強力な細胞分化増殖をもたらす[IGF-1]-[IGF-1R]系を介して,IGF-1Rを発現する腫瘍細胞の増殖が起こることが推定される. これらを背景に,研究期間中に虎の門病院内分泌センター/間脳下垂体外科で診療を受ける20歳以上の成人先端肥大症患者の肺癌合併頻度を,胸部CTスキャン[必要に応じて高解像度CT(HRCT)を]を用いて検討し,肺癌(とくに細気管支肺胞上皮癌,BAC)や異型性腺腫様過形成(AAH)を示唆する肺野の限局性GGO,肺癌を疑わせる結節などの病変合併の有無を検討した.2007年1月から2009年2月の26ヶ月に当院の間脳下垂体外科にて下垂体腫瘍切除術を受けた先端肥大症患者は255例にのぼる.しかしながら,これらの症例のうち,胸部CTを撮影しえたのわずか5例であった.この5例中,結節影を呈した症例は1例,肺野の限局性GGOは2例に認められ,うち1例は右肺の単発GGO,もう1例は左右肺に合計3個のGGOが確認できた.すなわち画像上BACあるいはAAHを疑わせる所見を有する患者は40%にのぼった.いずれも径が10mmに満たないため,現在経過観察中であり,摘出組織を用いたISHによるIGF-1およびIGF-1受容体発現,腫瘍組織と近傍の正常組織におけるcDNA microarray解析などの検討は未施行である.最後に,これまで報告した肺癌合併の先端肥大症症例に加え,新たに68歳の先端肥大症Hardy手術既往患者を経験した.この症例では,右肺内に同時多発性の2つの肺腺癌(上葉S3:高分化乳頭腺癌,下葉S7:中等度分化混合型亜型癌)を発症し,胸腔胸下切除術+術後補助化学療法,左側の肺癌推定病変への放射線療法を施行し,小康を得ている.
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