研究課題
基盤研究(C)
初年度に、各種腎臓病モデルラット(ネフローゼ、糸球体腎炎、急性虚血性腎不全)を用いて、糸球体や尿細管病変部において小胞体ストレス、及びその細胞応答経路(unfolded proteinresponse : UPR)が著しく亢進していることを明らかにしてきた。そこで次年度は、それら病変部の小胞体ストレスが病態形成・進展に関与すること、さらにそれを標的とした治療戦略の可能性を明らかにする目的で、小胞体ストレスpreconditioning(腎疾患誘導前に腎障害を及ぼさない少量の小胞体ストレス誘導剤、ツニカマイシンあるいはタプシガルギンを前投与)の腎保護効果を検討した。その結果、小胞体ストレスpreconditioning、つまり腎毒性の無い少量のツニカマイシンあるいはタプシガルギン投与は腎病理や機能に影響を及ぼすことなく軽度のUPR(GRP78 やORP150などの小胞体シャペロン発現亢進やeIF2α, PERKのリン酸を介した翻訳抑制経路の活性化)を誘導した。preconditioning4日後にThy-1腎炎を誘導すると、未処置の対照群に比し、糸球体病変(microaneurysm、糸球体の癒着や肥大、メサンギウム細胞増殖)や腎機能低下(蛋白尿)が著明に軽減した。その際、preconditioning群では、Thy-1腎炎で誘導される過剰なUPR亢進(小胞体シャペロン発現誘導や翻訳抑制)が著明に抑制されており、小胞体ストレスpreconditioningによるbasal UPRの軽度惹起が糸球体障害に対して保護的に働くことが明らかとなった。これら成果によって、basal UPRの惹起は腎障害時の腎臓構成細胞の小胞体機能維持、ひいては腎保護効果を有することが示され、腎病態進展時に生じる過剰なUPR変動を制御することによる治療効果の可能性が示唆された。
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