本研究は、糸球体腎炎の腎組織における網羅的発現遺伝子の解析結果から、糸傷害に関わる分子機構を明らかにし、新しい機能分子の同定と分子機能を解明するとともに、腎疾患の病態理解のためのバイオマーカーとして臨床応用することを目的としている。本年度は、抗糸球体基底膜抗体腎炎の糸球体上皮細胞障害の病勢と並行して発現する分子SM22αに着目して経時的な発現解析を行い、論文発表を行った。同分子は糸球体障害だけでなく、その後に引き起こされる間質障害に先行して間質細胞にも発現すること、免疫電子顕微鏡(immuno-gold法)により、糸球体上皮に発現する分子はfoot processが融合した部分に一致して局在することが確認された。そこで、1)尿細管間質障害を特異的に惹起するモデル、2)間質障害の後に糸球体障害を生ずるモデル、3)糸球体上皮障害だけを一過性に生ずるモデルでの同分子の発現動態を観察して論文を投稿中である。すなわち、1)では間質細胞だけに、2)では間質細胞、糸球体上皮細胞と障害の発生する順に、3)では糸球体上皮細胞だけに発現した。以上から、形態学的変化が生じる前に、病態特異的な腎細胞障害を感知するマーカーとすることができる可能性がある。一方、上皮細胞の形質変化および線維化のマーカーとして知られるαSMAとの二重染色により、SM22αはαSMAと発現動態を異にする新しい腎細胞障害マーカーであることも明らかにした。さらに、ヒト腎疾患においても同様の発現様式をとることを見出し、検討症例の積み重ねると共に臨床データと詳しく比較して解析を進め、結果を論文投稿中である。並行して、尿中の同分子検出法確立のため数種の特異抗体を作成してELISA法を確立した。また同分子の機能解析として、SM22αノックアウトマウスを用いて病態比較実験を実施した。
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