研究概要 |
1. グルココルチコイド受容体(GR)作動薬のPAI-1、VEGF、L-FABP発現への影響の解析 培養ヒト近位尿細管上皮細胞(HPTEC)で、GR作動薬の(ハイドロコルチゾン,デキサメサゾン(DEXA))は、基底状態でも低酸素下でも、PAI-1発現をmRNA量と蛋白量で有意に増強し、VEGF発現を有意に抑制した。GR作動薬のPAI-1発現誘導作用は、GR依存性でSrcファミリーチロシンキナーゼ経路を介し、VEGF発現抑制作用はGR非依存性であった。また。DEXA(1-5μM)は、肝型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)のmRNA発現を有意に抑制した。以上より、GR作動薬の一作用として線維化促進作用と血管新生抑制作用が推察された。 2. 機能的PPAR-γ発現の検討と炎症性サイトカインのPPAR-γ,FABP発現調節作用の解析 HPTECで、脂質親和性転写因子であるペルオキシゾーム増殖薬活性化受容体-γ(PPAR-γ)の発現を検討し、その活性化薬のPPAR反応エレメント(PPRE)の転写活性への影響と下流遺伝子発現へ与える影響を解析した。HPTECはPPAR-γを発現し、その活性化薬であるピオグリタゾン(Pio)、15d-PGJ2はPPRE-luc発現を有意に増強した。Pio(3μM)は、PPARの下流遺伝子である心型(H-)・肝型(L-)脂肪酸結合蛋白(FABP)、liver X受容体-α(LXR-α)のmRNA発現を増強した。また、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるtelmisartanもPPRE活性を増強し、LXR-α発現を増強した。一方、TNF-α(10ng/ml)あるいはTGF-β(5ng/ml)は、PPAR-γ、H-・L-FABP, LXR-αのmRNA発現を抑制した。以上より、HPTECには、定常状態で機能的なPPAR-γが存在し、脂質転送蛋白であるFABPと脂質親和性転写因子であるLXRの発現を増強することが判明した。また、炎症でPPARとその下流遺伝子の発現が抑制されることは、腎障害下のPPAR-γ経路の変容、減弱が推測された。
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