研究概要 |
腹膜透析(PD)を長期かつ安全に行うために問題となる慢性的腹膜障害と致死的合併症である被包性腹膜硬化症(EPS)の治療・予防は、重要な課題の一つである。腹膜炎は一要素であるが、その中でも真菌性腹膜炎は重篤になるうえ、EPSに陥ることも報告されている。我々は、病態解析実験・治療実験のために、物理的擦過モデル(NishimuraらAm J Physiol 2008)に、真菌菌体成分であるZymosan(Zy)をPD液(PDF)と投与して(Zy/scrape)、腹膜への影響を検討したところ、肉眼的にもはっきりと認められる程の高度かつDay36でも持続する炎症反応(炎症細胞の集積の持続)を起こすことを示した。このモデルを用いて、補体活性化の関与と抗補体治療の可能性について、全身の捕体の抑制をコブラ蛇毒因子(CVF)投与によって、腹腔内局所の補体活性化の抑制を可溶型complement receptor 1(sCR1)とCrry-Ig(IgG-Fc portionとの融合蛋白)について検討を行ったところ、共に腹膜障害を軽減した。特にCrry-Igは半減期がsCR1より長期であり、sCR1が連日投与を必要としたのに対して、投与回数を2日毎に減ずることが可能であった。また、補体活性化産物である、C3b,C5b-9の腹膜への沈着も著明に抑制された。我々は、慢性的進行性の、新たなZymosan/scrapeモデルを作成することに成功した。また、捕体がこの炎症過程に重要な役割を果たしていること、腹膜の膜補体制御因子の発現が実験モデル上減少する可能性、これに伴う異常な補体の活性化を起こす可能性を示した。以上から、抗補体療法が炎症性腹膜障害進展の制御やEPSの予防・治療につながる可能性があると考えられる。
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