研究概要 |
脂肪組織には多くの幹細胞が存在することが明らかとなり、再生医療における細胞ソースとして注目されている。名古屋大学の故北川は世界に先駆けて低血清培養法を用いてヒト皮下脂肪から分化能力と増殖能力の高い間葉系幹細胞(MSC=mesenchymal stem cell)の選択的分離培養に成功していた。本研究の目的は「脂肪組織内に存在する幹細胞を用いた新たな腎再生医療を開発すること」である。主たる成果は以下の3点である。 (1)低血清培養法に関するin vitroでの検討 低血清培養脂肪由来MSCは高血清で培養したMSCと比較して、再生促進サイトカイン(VEGF, HGF)を多く分泌すること、血管内皮細胞の増殖を促進し、アポトーシスを抑制すること、そしてその効果が抗サイトカイン中和抗体で抑制されることを見出した。また低血清培養脂肪由来MSCは高血清培養MSCよりも小型で培養を重ねても安定した形態を保っていた。 (2)ラット下肢虚血に対する治療効果: 低血清培養脂肪由来MSCをラットの下肢虚血モデルに投与すると高血清培養MSCと比較してより強い再生促進効果が得られた。 (3)ラット急性腎不全モデルに対する治療効果: 葉酸腎症を惹起したラットの腎被膜下に低血清培養MSCを投与すると、腎障害が軽減されることを見出した。またシスプラチン腎症を惹起したラットの腎被膜下に培養を介さない脂肪由来細胞(SVF)を投与することで腎障害が軽減されることを見出した。 以上の知見は新たな腎再生医療の開発に大きな意義を持つ。臨床応用を考えた際、少量の自己血清で培養が可能な低血清培養は有利である。さらに培養を重ねても安定していることは、臨床応用には必須条件である。また、動物モデルで腎疾患治療に対する有効性を示すことができた。
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