前年度までの研究から、腎糸球体に発現するBMPは糸球体血管係蹄の発生に必須の役割を担うことが明らかとなった(JASN 2008)。またその解析結果から、糸球体上皮細胞から産生されるBMPとVEGFはお互いに拮抗的に作用しながら、その形成に寄与する可能性が示唆された。そこで本研究ではBmpの糸球体上皮細胞特異的Transgenic mouse(Tg)とVegfのTgを交配する事により作成されるdouble Tgにおいて、single Tgでみられるそれぞれの形質がrescueされるか否かを検討した。 Nephrin-VEGFTgはembryoあるいは出生早期に致死性を示すことから、昨年度までの研究から、Doxycycline投与により(Tet-on system)誘導可能な糸球体上皮細胞特異的VEGFTg(Podocine-rtTA ; TRE-VEGF)の系統を作成した。このTgでは、Doxycycline投与により、(1)糸球体上皮細胞にVEGFが5倍から10倍程度過剰発現され、(2)糸球体血管係蹄からの出血にともなう尿細管への赤血球の充満、(3))ひとつの毛細血管ループにおける未成熟な内皮細胞の増殖とフェネストーションの消失、(4)メサンギウム細胞数の低下と、それに伴う血管係蹄に対するメサンギウム細胞の嵌入性分割の低下が形質として認められた。本Podocine-rtTA ; TRE-VEGF TgとNephrin-Bmp4Tgを交配し、得られたdouble Tg1を解析した結果、それぞれのsingle transgenic mouseに比較し、double transgenic mouseでは糸球体、尿細管ともにphenotypeが顕著になっていた。両者の発現量のバランスにもよるが、これらの結果は、糸球体上皮細胞に発現するBMPとVEGFは糸球体血管係蹄の発生にむしろ協調的に働き、BMPはVEGFにより誘導された血管新生の成熟因子・安定化因子であるという仮説に至った。
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