パーキンソン病(PD)の治療法の開発には、本態である中脳ドパミン神経細胞の変性機構を解明し、治療標的候補を探さなくてはならない。私たちは、PDの疾患感受性遺伝子としてGタンパク質共役型キナーゼ5(GRK5)を見出し、GRK5はPDを特徴づける異常構造物レビー小体を構成するαシヌクレイン(αS)の129番目セリン残基をリン酸化することを報告した。私たちは、セリン129のリン酸化がαSの異常重合・凝集化を促進し、神経細胞毒性をもたらすという「リン酸化αS仮説」を考えている。本研究課題は、この仮説を検証し、治療標的としてのαSのリン酸化反応を検討するため、平成19年度に引き続き以下の3目標を検討した。1) αSのセリン129をリン酸化するキナーゼの同定、2) GRKファミリーを介したαSのセリン129リン酸化の制御機構の解明、3) リン酸化αSセリン129のモデルマウスの作成並びに解析である。1) については、RNA干渉法を用いて、ヒト神経系SH-SY5Y細胞ではGRK3、GRK5、GRK6に加え、α'サブユニットから成るCK2が関与していることを明らかにした。2) については、膜と関連して存在するαシヌクレインのリン酸化には、これら全てのキナーゼが関与し、細胞質にあるαシヌクレインのリン酸化はCK2が寄与していることを明らかにした。これらの結果は、これまで報告されておらず、今後論文として公表予定である。3) については、AAV2ウイルスによってαシヌクレインとキナーゼをラット中脳黒質に共接種し、ドパミン神経細胞死を引き起こす系を作製した。GRKを介した「リン酸化αS仮説」を検証するツールとして、本実験系は有望と考えられる。
|