研究課題
重症筋無力症(MG)は、骨格筋シナプス後膜上のニコチン性アセチルコリン受容体(AChR)を標的とした自己免疫疾患と考えられてきたが、近年、AChR抗体以外の自己抗体の病態への関与が注目されている。AChR抗体陰性のMG患者の中に、抗MuSK抗体陽性者が20%程度の割合で見られ、AChR抗体陽性MG患者の中に、リアノジン受容体(RyR)抗体を持つ患者がいることも注目されて来た。RyRは骨格筋の興奮収縮連関に関与する重要なタンパクであるが、我々は、胸腺腫合併MG患者の持つRyR抗体の病態にかかわる意義を検討してきた。RyR受容体に対する単クローン抗体を骨格筋培養細胞C2C12の培養液中に添加すると、アセチルコリンにより惹起される細胞内カルシウム濃度上昇が抑制されることがわかった。また、RyR受容体に対する単クローン抗体は、C2C12表面上に形成されるアセチルコリン受容体の凝集形成を抑制することがわかった。アセチルコリン添加後の細胞内カルシウム濃度上昇は、迅速な筋収縮惹起のための興奮収縮連関の過程に必要な現象である。一方、アセチルコリン受容体の凝集形成は、神経筋接合部におけるアセチルコリンの放出を効率的に筋膜の電位変化に変換するために不可欠な要素である。以上より、我々はRyR受容体抗体による神経筋伝達障害、ならびに興奮収縮連関の障害機序を証明することが出来た。MGの治療においては単にAChR抗体を疾患の本体ととらえるのみでなくRyR抗体の存在、そしてそれによる相加的な神経筋伝達障害、また独自の興奮収縮連関の障害を考慮する必要がある。また、RyR抗体はAChR抗体とともにMG特異的な診断ならびに治療のバイオマーカーとしての価値があることが明らかになった。
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Clinical Neuroscience
巻: 28 ページ: 103-105
Arch Neurol
巻: 66 ページ: 1334-1338
http://hsc.ad.kanazawa-u.ac.jp/an/