Hepatoma-derived growth factor(HDGF)は、肝癌由来細胞を使い、増殖因子として同定された分子である。我々は、HDGFが神経細胞の核に多く発現し、培養下では、培養液にHDGFの発現がみられること、細胞外から添加したHDGFは神経栄養因子として働くことなど、神経系においてHDGFが"Endokine"すなわち"DNA-binding cytokine"として働くことを示した。 今年度は、HDGFの発現を決める因子および作用機序を解明する目的で、まず培養細胞を使った過剰発現系と発現抑制系の確立に取り組んだ。通常のトランスフェクションによる発現系では、トランスフェクション自体によって発現が増減する分子とくにサイトカインがあることや細胞毒性の問題があるため、テトラサイクリンをoffにすることで、HDGF発現を誘導し過剰発現する系を、神経細胞に近いPC12細胞を使用し確立した。この系では、NGFを加えると細胞の分化を誘導できるので、HDGFの役割を増殖細胞と分化細胞の2つの系で検討できるメリットがある。一方、HDGF発現抑制系についても、毒性等を軽減する目的で、siRNAのテトラサイクリンによる誘導あるいは、siRNAを発現するプラスミドの安定発現系の確立を目指して、15種類のプラスミド、3種類の細胞系を試みたが、ウエスタンブロットや免疫染色にて70%以上の抑制を再現よく示すものは皆無であった。このことは、HDGFのある特殊性を示すものと考えられる。今後は、siRNA自体の導入を検討し、HDGF過剰発現系と抑制発現系を使いマイクロアレイによる網羅的解析を行う予定である。
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