HDGF(肝癌由来増殖因子)は、生存に不可欠と考えられ、細胞の生存と深く関与していると考えられていたが、ノックアウトマウスの作成が報告され、発生に不可欠ではないという論文が発表された。従って過剰発現系や抑制系の解析よりも、神経変性疾患(筋萎縮性側索硬化症モデルマウス)におけるHDGFの発現に関しての検討を優先させた。正常マウス腰髄(41週令)におけるHDGFの免疫反応性は、その程度に個体差があるものの、共通して、主に後角や中心菅付近の小型神経細胞の核を中心に強陽性の細胞を多数認めた。一方、体性運動神経細胞群よりなるRexed第IX層における神経細胞核の免疫反応性は比較的弱いことが明らかになった。モデルマウス(38週令)腰髄においても、正常マウスと同様にHDGFの免疫反応性の程度に個体差をみとめた。また、運動神経細胞数が高度に減少しているにかかわらず、ほとんどのマウスにおいてRexed第IX層におけるHDGF陽性の運動神経細胞核が目立った。また、HDGF強陽性のグリア細胞も認められた。興味ある結果は、個体差があること、変性が進行すると強く発現する細胞の種類に変化があることである。我々の結果は、後天的な神経変性疾患においては、HDGFは、細胞の生死に深く関与していることを支持していると考えられた。また、変性疾患と炎症という観点からみると、中枢神経系細胞におけるHDGF発現能力の個体差が、炎症反応の個体差を意味し、生存期間と関与しているかどうかという点に興味がもたれる。
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