研究概要 |
神経難病の一つである多発性硬化症(MS)の病因は不明であるが、その病態には自己免疫機序の関与が示唆されている。我々は、低分子量GTPaseであるRhoの下流に位置するエフェクター分子の一つであるRho-kinaseを特異的に阻害するfasudilを、MSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に投与することにより、予防的効果、並びに治療的効果が得られることを報告している。Rho-kinase阻害剤は、脳炎惹起性を持つIFN-γ等のTh1サイトカインを産生するTh1細胞やIL-17を産生するThIL17への分化を抑制するばかりでなく、これらの自己反応性T細胞の中枢神経系への移動を阻害することが明らかとなった。本年度はラット脾臓細胞に対して抗CD3抗体、抗CD28抗体による刺激を行い、Rho-kinase阻害剤の有無で増殖応答を検討したところ、Rho-kinase阻害剤の濃度に依存して増殖応答の低下が認められた。Rho-kinaseの下流にあるMAPkinaseのリン酸化を検討した結果、p38のリン酸化はfasudilを加えた場合で上昇していた。P38のリン酸化の上昇は、T細胞に対してTh2へのシフトを誘導する、或いはp38のリン酸化をブロックすることでTh2サイトカインの産生が低下することが報告されている。つまり、fasudilによる脳炎惹起性T細胞への分化に対し、Rho-kinase阻害剤であるfasudilはTh2への分化やTh2サイトカイン産生を増大させることにより、Th1やThIL17への分化を阻害していると考えられた。今後更に、Rho-kinase阻害剤の免疫抑制機序の解明、並びにRhoA,Rac1,Rac2,Cdc42などの低分子量GTPaseの阻害が、免疫担当細胞に対してどのような効果をもたらすかを検討していく。
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