研究概要 |
多発性硬化症(MS)の病因は不明であるが、その病態には自己免疫機序の関与が示唆されている。我々は、低分子量GTPaseであるRhoの下流に位置するエフェクター分子の一つであるRho-kinaseを特異的に阻害するfasudilを、MSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に投与することにより、予防的効果、並びに治療的効果が得られることを報告している。Rho-kinase阻害剤の自己免疫反応に対する作用をさらに明確にするために、末梢神経髄鞘に特異的に発現するPOペプチドをルイスラットに免疫することで神経炎を誘導した動物モデル(EAN)を作製し、これにRho-kinase阻害剤を投与しその効果を検討した。この系においても、EAEの系と同様にRho-kinase阻害剤の予防的投与によりその発症率の有意な低下と、治療的投与による投与後のclinical scoreの有意な低下が認められた。末梢神経の組織学的な検討では、Rho-kinase阻害剤を投与したラットでは、炎症細胞浸潤の程度が有意に低下し(1.33vs.2.67,p=0.042)、脱髄の程度も有意な低下が認められた(0.5vs1.75,p=0.036)。POペプチドに対する自己反応性T細胞応答は、Rho-kinase阻害剤投与群では増殖応答が抑制され、抗原特異的に産生されるIFN-γとIL-4の比も低下していた。また、Rho-kinase阻害剤投与群のリンパ節細胞においては、STAT6のリン酸化が有意に亢進しており、Th2へのシフトが示唆された。以上のことから、Rho-kinase阻害剤は自己反応性T細胞の分化に対し、Th2への分化を促進することにより、Th1やTh17への分化を阻害し、一方で、これら自己反応性T細胞のmigrationも低下させることで、自己免疫疾患の発症や重症化を抑制しうるものと考えられた。
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