研究概要 |
本研究の目的は種々の神経疾患原因蛋白の核内輸送に関して、運動ニューロン病様Triple A症候群(AAAS)の原因である核膜孔蛋白アラジンに依存性であるかを検討し、本疾患で障害を受けやすい古典的な核局在シグナル(NLS)以外の輸送シグナル同定と輸送機序の解明である。 まず、神経疾患原因蛋白をアラジンを基準として分類するために、運動ニューロン病の原因となるSMN1,SOD1および小脳失調の原因となるXPA,ATM, ataxin 1、アプラタキシン、さらにパーキンソン病の原因蛋白パーキンのGFP蛋白をAAAS患者と対照線維芽細胞に発現させ、その核内輸送を検討した。その結果、アプラタキシンのみ患者細胞の核内に少なかった。他の蛋白は対照との差がなく、アラジン非依存性の核内輸送をうけると考えられた。 次に、AAAS患者細胞において、輸送障害を受けないXRCC1蛋白における、古典的NLS以外の輸送シグナルを検索した。その結果、古典的NLS(239-266残基)の下流267-276残基が重要である事が判明した。この新たに同定したNLSをminimum essential sequence of stretched nuclear localization signal (mstNLS)と名付けた。mstNLSを融合すると、アプラタキシンはAAAS患者細胞の核内に効率よく輸送された(Biochem Biophys Res Commnun 2008;374:631-634)。また、正常細胞であっても、酸化ストレス下においては、アプラタキシンの核内輸送が障害されるが、mstNLSはその状況下においても効率よく核内輸送を行えた。また、mstNLSを融合したアプラタキシンを患者細胞に発現させると、酸化ストレスへの抵抗性を獲得した。以上から、mstNLSは患者細胞の核内輸送障害を改善するだけでなく、酸化ストレス下の正常細胞においても、強力な核局在シグナルとなることが証明された。
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