HeLaやMCF7など悪性腫瘍由来の培養細胞には分子量75kD前後の低分子量のα-ジストログリカンが発現していた。これらのα-ジストログリカンは糖鎖部分に対する抗体であるIIH6と反応せず、ラミニン結合能を持たないことから異常な糖鎖修飾を受けたα-ジストログリカンと考えられた。これらの結果から、悪性腫瘍は生化学的にα-ジストログリカノパチーとしての側面を有していることが明らかとなった。次に各種培養細胞に対してトランスフェクションによるLarge遺伝子の導入を行なったところ、α-ジストログリカンの分子量は200kD前後にまで著明に増大するとともに、IIH6との反応性、ラミニン結合能とも著しく亢進した。これら培養細胞では糖転移酵素の異常は特定されていないわけであるが、このような場合においてもLargeの過剰発現によりα-ジストログリカンの機能修復が生じることを示した。さらに欠失コンストラクトを用いたトランスフェクションの実験から、α-ジストログリカンの機能修復にはLargeの管腔内ドメインのほぼ金長が必要であることが明らかとなった。 また我々はin vivoにおけるLargeによるα-ジストログリカンの機能修復作用を検討するためにLargeトランスジェニックマウスを作出した。同マウスは正常に誕生、発育し、交配も可能であり、外観上明らかな行動異常を示さなかった。ウエスタンブロット法、免疫蛍光抗体法で解析したところ、同マウスの骨格筋、心筋、末梢神経、腎臓などを含む各種臓器においてα-ジストログリカンの高分子量化とIIH6に対する反応性の著明な亢進を認めた。またこれらの臓器を光学顕微鏡で観察したところ明らかな形態学的異常は認められなかった。同マウスは明らかな障害を示さないことから、将来的にはLargeの全身的投与によるα-ジストログリカノパチーに対する治療への道が開かれたものと考えられる。
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